第27回:麻雀といえばあの人。

レーサー岡谷の清老頭で終わった半荘はレーサー岡谷の一人勝ちである。予定通りクリムゾン真鍋が最下位に沈み、巻き添え食ってマイナスに転落したぱぺぽくんもじわっと怒りをためている感じ。

真鍋:半荘3回め行きましょうか、次は岡谷さんを下ろすために、クルムシ軍曹、ぱぺぽくんも当たる相手をよく考えてくださいね。岡谷さんは、みんなで協力しないと倒せないので。

じぇ:私、岡谷さんの後ろで見ときます、なぜ強いのかその秘密を私も覚えたいので。

岡谷:いいよ見てて、でもワシの打ち方は特に変わった打ち方じゃないからな、違いがあるとしたら気迫だ、要するに気合が違うってことだ。

じぇ:なんか、気合を入れる方法があるんですか、普通にしているとそんなに気合が入らないと思います。

岡谷:それは、自分を限界まで追い込むこと、そうすれば不思議な魔性の力が湧いてきて、思い通りの手が作れる。そのためにワシはいつも車の運転でも限界を攻めて気迫を注入しているんだよ。

じぇ:車の運転と大きく関係があるんですね、それはすごい。

岡谷:勉強でもそうだ、ワシは高校、大学と、いかに勉強せずに合格するか、それをとことん追求してきた。ガリガリ勉強していい学校に入るのは当たり前、なにも感動を呼ばん。いかに勉強時間を極限まで絞り込んで空いた時間はパチンコで英気を養い、そうして麻雀に立ち向かう。そうすれば魔性の力を纏うことができる。

クル:クリムゾン真鍋、なんだか、俺って大変な人と麻雀してる気がしてきました、どうみても勝てそうな気がしない。

真鍋:それは、すでに君が岡谷マジックに毒されているからだ、気をたしかに持て。相手は鬼でも悪魔でもない、普通の人間だ。気迫に飲まれないようにな。

クル:じぇーんさん、さっきのココ茶、もう一杯いただけますか、なんかあれ飲むと心が落ち着くような気がして。

岡谷:ドーピングはチョンボですよ、男たるものインチキせず正々堂々と戦うのがスジであろう。

真鍋:正々堂々と戦って、岡谷さんの肥やしになるのが男の道ってもの。松本零士先生もおっしゃっている。男には負けるとわかっていても戦わなければならないことがあるのだ。今がその時、ためらわなくていい。

じぇ:そうですよ、ココ茶とかインチキしないで、壮絶に散ってくださいね、クルムシさん。

クル:はい、ではそうすることにします。

真鍋:じぇーんちゃん、私に普通のお茶をください。あと、ここのトレイは銀製で錆びやすいので、乾くまでしばらく持っててくれますか。

じぇ:ここで持っていればいいんですね。

真鍋:はい。

クル:では、二度ぶりで私がサイコロを…。ぱぺぼくんですね、次にふるのは。

ぱぺ:ぴきぴき、チンチロ。

岡谷:おお、魅入られたようにワシに出親が来たな、さすがぱぺぽくん、モノの道理がわかってる。ということで、アリアリで行きます。

真鍋:ぱぺぽくん、なんてことしてくれたんだ、岡谷さんがこれで疾走してしまうぞ。

ぱぺ:ぴきぴきぴき。

真鍋:テメーはそれでいいよ、仕方ない。タンヤオのみで8回連続上がって終わりにするよ。クルムシ軍曹も協力頼むよ。

クル:それがいい気配ですね。でも、こっそりクリムゾン真鍋が岡谷さんに役満直撃食らうところも見てみたい気もします。

真鍋:ヲイヲイ。

宣言どおり、鳴きタンばかりのせこい手で上がり続けるクリムゾン真鍋。あまりのセコさにレーサー岡谷の機嫌が悪くなる。

真鍋:クルムシ軍曹、それロンです。タンヤオのし、1000点です。

クル:またですか、せこい上がりですね。

真鍋:いいんだよ、岡谷さんを止めるのにはこれしかない。

クル:まあ、仕方ないんですかね、私としてはもっと気迫あふれる試合を希望なんですが。

岡谷:しかし、なんだかクリムゾン真鍋、絶好調だな。なにか不思議な力が取り憑いたかのように。

岡谷さんの言葉にぎょっとするクリムゾン真鍋。そのときぱぺぽくんが急に喋りはじめる。

ぱぺ:まだ麻雀やっとるんやんけ、さっさと麻雀終わらせて熊の謎考えよう。途中まで八熊伝読んだが、なかなか興味深い話があるやんけ。

真鍋:またでたな、ハンター竜田。いま大事なところだから邪魔しないでくれ。岡谷さんと戦うのは精神を集中せねばならん、いまはかろうじて踏みとどまっているところなんだが風水を乱されるといきなりバランスが崩れる。

竜田:なんや、またいつものインチキやっとるやんけ。どうせ、じぇーんちゃんに銀細工のトレイもたせて強いやつの後ろに立たせて、手牌をのぞくとかやってるやんけ、せこいことして勝っても意味ないから、さっさと払うもん払って熊の話始めるやんけ。

クリムゾン真鍋のインチキを竜田にバラされて挙動不審になるクリムゾン真鍋。

麻雀の不正行為とは、実力だけでは太刀打ちできない相手に対して、イカサマ技を用いて戦う先方である。スキルが高いとほぼ勝つことができるが、イカサマがバレた場合のリスクを考えると、物理攻撃への耐性が強いキャラクタ以外はむやみに用いるべきではない。 「出典:近代芸無辞典より」

クル:そんなセコいことしてたんですか、クリムゾン真鍋。まあ、驚きはしませんがね。

岡谷:ワシは実は知っておったよ、クリムゾン真鍋がセコい手を使っていることを。まあ、ワシの手牌は大事な部分は見えないようにしていたから大して役には立っていないと思うが。

じぇ:私のトレイがそんな意味があるとはぜんぜん気が付きませんでした。

岡谷:ということで、ワシが親だな。これからは伏せ牌で打たせてもらうよ。

牌を全く見ないで、伏せたまま打ち続けるレーサー岡谷。

クル:すごいですね、見なくても打てるなんて。

岡谷:それは車の運転でも同じだよ、つぎのコーナーから対向車がくるかどうか、見なくても心の目を開けばおのずからわかる。ということで、クルムシさん、それロンです。

クル:ぎえ。

岡谷:安いよ、安め振り込みだ。三色一盃口のマニガニです。

クル:鳴かないから安心していたら、そんな手を作っていたんですか。

岡谷:まだまだ、ワシは勝ち続けるよ、これはほんの序の口。

伏せ牌のまま勝ち続けるレーサー岡谷。特に2回連続で直撃食らったぱぺぽの様子がおかしい。

岡谷:ロンです、ぱぺぽくん、リーチドラ5、ハネマンです。

ぱぺ:ぴきぴきぴき。

クル:どうやらぱぺぽくんが怒りのあまり暴走を始めたようですよ、どうしましょうか。

ぱぺ:ぴきぴきぴき、ぴきぴきぴき、ドカン。

真鍋:あ~だめじゃないか、麻雀卓ひっくり返したら。これが有名なちゃぶ台がえしですね。どうやら電動卓のセンターの部分が床に落ちた湯呑と衝突して変形してる、そこ一番微妙な構造なんだけど。

クル:どうやら故障したみたいですよ、ボタン2つ同時に押しても蓋が開かなくなりました、ということでこの半荘は故障によりノーコンテストということで。

岡谷:それはワシが許さんよ、こういうこともあろうかと、普通の牌セットも用意してきた。それで続きをやろう。

段取りよく、黒いケースに入った普通の麻雀パイをテーブルに広げ始めるレーサー岡谷。

ということで、手積みで半荘を継続することになった4人。

クル:しかし、手積みで麻雀というのはいいですね、このかき混ぜる音が萌えます。

岡谷:ワシもそう思う、牌が混ざっている音はいいもんだね、クルムシ軍曹。

淡々と進む半荘、ぱぺぽくんが細かく振り込んだまま、ぱぺぽの親の順番に。

ぱぺ:ぴきぴきぴき。

岡谷:ええぞ、ぱぺぽくん、行ってええぞ。

ぱぺ:ぴきぴき、キョン。

クル:ええ。なんですって、もう上がってるって。

ぱぺ:テンホーです。

真鍋:あれ、いまなんかぱぺぽが普通に喋ったような気がするが…。

クル:ほんとテンホーみたいですよ、これ、どう見ても上がってます。ねえ、岡谷さん。

岡谷:他の人の目はごまかせても、ワシの目は誤魔化せんよ、これは積み込みましたね、電動卓ひっくり返して破壊して、手積みにしていきなりテンホー、これはインチキですな。

ぱぺ:いったいなんの根拠があってそんなことをいうんだ、状況証拠を積み上げても証明したことにはならん。

真鍋:こここ、この声は、ニンジャ花咲、そうだろ、花咲。

花咲:よくわかったな、俺が麻雀を心から愛しているのは知っているだろう、その俺を呼ばずに麻雀を始めるとは不届き千万。よって、俺はパペポを使って参加することにした。

真鍋:道理で打ち筋が急に変わったと思った。

花咲:さっきハンター竜田がぱぺぽに混信したときがあっただろ、あのときにニンジャの技で接続パスワードがわかったわけだ、それ以降はぱぺぽは意のままに操れる。

クル:岡谷さん、どうします。またメンバーが変わったみたいですよ。

岡谷:イカサマであろうと上がりは上がり、ワシは気持ちよく16000点払わせてもらうよ。それよりも、ワシはいま猛烈に感動している。最近手強い相手に恵まれなかったが、どうやらこの花咲という男、凄腕の雀士だな、強い相手とお手合わせするのは願うところだ。

クル:僕は飛びそうですよ。今回は飛びなしルール、とことんマイナスが溜まっていきますね。

ぱぺ:ぴきぴきぴき。

真鍋:あれ、ニンジャ花咲は戻っていったかな、ぱぺぽくん、サイコロ振ってね。

ぱぺ:ぴきぴき、ポン。

クル:あれ、また自五がでそうだったのに、なんか急に目が変わりましたよ、なんでだろう。

真鍋:それは、いま岡谷さんが見えないスピードでサイコロが落下する瞬間に風を送って目を変えたからだよ。秘技、賽の目返し。

ぱぺ:ぴき。

クル:ぱぺぽくん、いきなりドラ切りですね。では私もドラを切って。

岡谷:ではワシの番だな、積もって、おお、計算通りだ、チーホー、役満です。

真鍋:なんだ、またインチキか、やってられないな、この麻雀。

岡谷:積み込んだのはワシではないよ、ぱぺぽくんだ。テンホーになる予定の配牌をちょっと調整してだな、なんだかうまく行った。

ニンジャ花咲に乗っ取られインチキ技を炸裂させる麻雀ロボット、それすらも人間の技で跳ね返すレーサー岡谷。

クル:僕はいま、猛烈に感動しています。岡谷さん、素晴らしい。

じぇ:岡谷さん、凄いです。

まあ、岡谷さんと麻雀を始めた時点で負けることは決まっていたこと、特に驚きはせんな。

岡谷殿、貴君とはいずれ、直接相まみえることもあろう、その時の勝負を楽しみにしている。

結局、正攻法でもインチキでも麻雀ではレーサー岡谷に刃が立たなかったクリムゾン真鍋。麻雀はこれくらいにして次回は八熊伝の謎を解きにハンター竜田の村に向かうのである。