第1回:すべての始まり

それは、ある夏の日である…

真鍋:ビールがうまい!プールサイドで飲むビールは格別だ。

ここは、香港のカオルーンエリア、ワンポアにある、日本からの駐在員がたくさん住んでいるというラグナベルデ。50階建ての高層タワーが40本以上建てられているコンドミニアム。真鍋は3年前からここラグナベルデを根城にしている。

真鍋:ワンポアは便利でいいな、またランチには詠藜園の四川担々麺を食べに行くか。それとも最近できた地下鉄で九龍城にいってタイ料理でも食うかな。

ファイティングクライマックスを作ったあと、ここ数年はゲーム制作もせず、毎日ぐだぐだの生活をしている真鍋である。一日の大半は、香港グルメを堪能し、昼間からプールでビールを飲む、堕落した生活を送っている。

ビロロ~ン、メッセージの着信音がする。

女性:マスター、スマホをお届けに来ました。先程からメッセージの着信してます。

真鍋:ありがとう、じぇーん。君はよく気がつくね、最高のメイドさんだ。

じぇ:それほどでもないです。では、私は部屋に戻ります。

じぇーんは、去年から、我が家でメイドをやっているが、どこで生まれ育ったかは謎に包まれている。数年間日本に留学していたとのことで、日本語も問題なく話せる。

真鍋:じぇーんは気が利いていいね、英語も上手いから世間話しているだけで英語の練習にもなるし…、で、誰からかな?メッセージは。

謎の人:せっかくだからゲーム作らないか?プールで寝てるばかりじゃ退屈するだろう。

真鍋:どうして私が、プールで寝てることをこの人は知っているんだ、怪しいやつ。とにかく、なんだかややこしそうな話だから、さっさとビールの続きを飲んで寝てしまおう。ということで、ブロック!!

ピロピロピロ

真鍋:今度は電話が…。よく見れば、発信相手は板垣さんじゃありませんか。

板垣:酔っ払いゲームを作りたい、酔っ払いが出てきてバンバン酔っ払いを倒すゲームだ。いいの思いついたので、ぜひ一緒に作りたい。

あわてて電話を保留にする真鍋。ふと見ると、部屋に帰ったはずのじぇーんがそばに立っている。

じぇ:マスター、その人って危ない人ですか?たしか有名な人でしたよね。エロっぽいバレーのゲームとか作ってるという…。

正式名は「DEAD OR ALIVE XTREME BEACH VOLLEYBALL」、別名エロバレー。2003年に発売されたビーチバレーを題材としたスポーツゲーム。露出の高い女性キャラと水着が人気となった、板垣伴信を語る上で外せない代表作のひとつ。「出典:近代芸無辞典より」

真鍋:まあ、そんな感じだ、本人は全くエロっぽくないんだが、作るものがエロっぽい、そんな人ね。

じぇ:で、どうするんですか、マスター?日本に帰ってゲーム作るんですか。

真鍋:しばらく考えてみよう、いずれにせよ、日本に帰るとしたらじぇーんも一緒に来るように。確か君は日本の永住権持ってたから問題ないよな。

じぇ:わかりました、お供します。

真鍋:そうと決まれば、保留解除。もしもし、ゲーム作りの件、考えときます、板垣さん。

板垣:では、早速打ち合わせだ。増上寺のカフェで待ってるぜ。では…

突然かかってきた電話は、突然切れた。

真鍋:相変わらず、強引な人だ。知り合ってからだいぶ立つが、何も変わってない…、まあ、よくわからない話だけど、せっかくだからいってみるか、増上寺。

ということで、真鍋は香港から東京、増上寺に飛ぶ。

真鍋:で、話というのは何でしょうか?

板垣:せっかくだから、一緒にゲーム作ろう。酔っ払いが酔っ払いを倒すゲーム。なかなか面白そうだし。

真鍋:(冗談かと思っていたが本気で酔っ払いゲーム考えてたんだ、大丈夫かな、この人…)

板垣:敵がゾンビとか、秘密組織の戦闘員とかもう古い。21世紀にふさわしい敵は、「酔っ払い」これだ。

板垣:一緒に凄いの作ろうと思う!凄すぎてなにが悪いって感じのゲームだ。

「凄すぎて何が悪い」とはNINJA GAIDENで板垣が使ったキャッチコピーである。当時の板垣の制作における考え方を如実に表すコピーとして広く知られている。「出典:近代芸無辞典より」

真鍋:(組む相手間違えてるんじゃないか、うちは別の意味で凄すぎるエコールだぞ、って思うけど)

真鍋:わかりました。では酔っ払いゲームを作りましょう。それも凄いの作りましょう。で、敵は決まったけど、ゲームシステムはどうしますか?

おまたせしました、ご注文の品をお届けに来ました。

板垣:はい、ありがとう。

真鍋:なんですか、このたくさんのグラスは…

板垣:これはハイボールだ。最近人気のウイスキーのハイボール、濃い目だ、軟弱な酔っ払いは必要ないし。

真鍋:しかし、すこし多すぎるのでは?

板垣:これでもまだ、大したことはない。これくらいで音を上げる酔っぱらいは真の酔っぱらいとは言えない。軟弱なやつは道をあけろ。

真鍋:要するに酔っ払いゲームというのは、酔っ払いの敵を倒すのではなく、酔っ払いが作るゲームってことなんですね。

板垣:そういうことだ、これからは酔っ払いの時代だ。酔っ払いの、酔っ払いによる、酔っ払いのためのゲーム、それが今時代に求められているのだ。わかるかな?もう、ゾンビとか撃っても当たりまえ過ぎて、誰も感動しない。しかし、酔っ払いが作った、酔っ払いが、酔っ払いを撃つゲーム、登場人物は制作者も含めてすべて酔っ払い!これこそ、今、時代に求められているゲームだ。スマホゲームでちまちまパズルゲームをやるなんて、もう古い。

真鍋:わかりました、全然わかってませんけど、とにかくわかりました。板垣さんは酔っ払いゲームを作りたい、ということはわかりました。

板垣:その通りだ。それが理解できればそれだけで十分だ。

真鍋:それはそうと、我々の名前を決めなければいけませんね。もう板垣さんはテクモの社員でもヴァルハラの社員でもないわけですから。ということで、板垣さんは今後、ニンジャ板垣にしましょう。私は、巷ではプレジデント真鍋と呼ばれているようですが、自分でそう名乗ったことはありません。今後はクリムゾン真鍋で行きます。

了解、ニンジャ板垣とクリムゾン真鍋、酔っ払い二人でゲームを作ろう、それも凄いの。

酔っ払いの、酔っ払いによる、酔っ払いのためのゲームにさっそく乾杯!

こうして、増上寺のファミレスで、たくさんのハイボールグラスに囲まれながら、ニンジャクリムゾンチームが結成されたのでありました。

凄いゲームを作ると誓いを立てた、ニンジャ板垣とクリムゾン真鍋。東京タワーも暖かく見守っています。

次回に続く。