真鍋:来ましたよ、鉄砲坂。広尾の駅から歩いて5分、あたりには大使館がたくさんあるし、高そうな外車ショップも列をなしてますね。
板垣:確かに、たくさんの警察官があちこちに立っている異様な雰囲気だな。
真鍋:日本でも最も路線価が高い、特別なエリアみたいですね。
板垣:で、なんで桐太郎とやらは、待ち合わせ場所に選んだんだろ、もしかするとどこかの大使館関係者なのか。
真鍋:西麻布の異様な雰囲気に飲まれていて、いまはそれどころではありません。
板垣:おや、坂の途中辺りに白い服を着た、変な男が立っているぞ、なんだか怪しいやつ
真鍋:白い服といえばこの世界では佐藤、撃ってはいけないキャラですね。関わると面倒なので遠回して迂回しましょう。
板垣:あれを見てみろ、クリムゾン真鍋。あの白服男、よくみれば柔道着を着ているぞ。しかも上から下まで白い柔道着。撃てばオーノーとか言うかもしれないな。
そう言いながら、指を銃の形にして、柔道着の男を撃つ真似をする板垣、そして、ゆっくり引き金を引くと…
オーノー。
板垣:確かにオーノーと言ったよな、やはりあれが桐太郎か?
真鍋:いま、オーノーと言ったのはじぇーんです。ちょうどアイスを買いに行ってもらってたのですが、スプーンをもらい忘れたみたいで…。
じぇ:坂の上のファミマに行ってアイスを買ってきました。私服の中学生と高校生がたくさん店を占拠してアイスがほとんど売り切れでした。
板垣:状況はわかるが、このタイミングでオーノーというのはやめてくれ。紛らわし過ぎで判断を誤る。
じぇ:すみません、板垣首領様。
板垣:首領もやめてくれ、俺を呼ぶときはニンジャマスターと呼べ。
じぇ:わかりました、ニンジャマスター。
真鍋:あれ、柔道着の男がスクワットを始めましたよ、この光景はいつか見たことある光景、あれは1998年の頃、映像スタジオで素材の収録を行ったときだったかな。
じぇ:大丈夫ですか、マスター。それってマスターが昔話ししてくれた、せがた三四郎の収録のことですね。
真鍋:そうだ、あれは暑い日だった。神谷町のスタジオで、当時人気絶好調だったせがた三四郎のゲームを作るときにたくさん写真を撮りに来たんだが、そのときせがた三四郎を演じていた役者の人が、休憩時間にもずっとスクワットをして体を鍛えていたことに当時はすごく感動したものだ。
板垣:せがた三四郎のゲームはクリムゾン真鍋が作ったのか?それは初耳だ。
真鍋:その件は、またいつか話するとして…。どうやらあの白い柔道着の男が桐太郎という可能性が高くなった、さっそくだから声をかけてみよう。
おーい、桐太郎と三人が同時に声をかけると…
桐太:これは、これは、クリムゾン真鍋さんとニンジャ板垣さん、それにメイドのじぇーんさんも一緒ですね。私が加納桐太郎です。どぞよろしく。
じぇ:あれ、君って桐…?なんか見たことあると思った。なんで、こんなところで柔道着を着て運動してるの?
桐太:先週、偶然に家でネット見てたら、ニンクリ物語ってのが始まって、そこでクリムゾン真鍋とニンジャ板垣がじぇーんと一緒に楽しそうに悪い計画を立てているページを見たわけね、確かプログラマーはどうするってサブタイトルだったっけ。
じぇ:そうなんだね、で桐太郎がなんでここに?
桐太:面白そうだったからせっかくだから、メールを送ってみたって話ね。で、もしかしたら来るかなと思ってここで待ってたわけ。
真鍋:なんで、そんな面倒なことするんだ、ぶつぶつ、もっと手っ取り早く進める方法があっただろ、私は面倒なことが大嫌いなんだ、もっと単刀直入にやれよ、この野郎。
板垣:クリムゾン真鍋、なんか今日は機嫌が悪いな、なにをそんなに怒っているんだ。で、桐太郎、いや、桐太郎くんと言ったほうがいいな。君はゲームのプログラムができるのか?
真鍋:そんなん、できるの当たり前だろ、ぶつぶつ。
板垣:ちょっと、クリムゾン真鍋は黙っててくれるか…なんで機嫌が悪いのかわからんが、いまはこの、桐太郎くんと話しをしているんだ。
桐太:プログラムは得意ですよ、父の影響で小学生の頃からプログラムやったりゲームのテストプレイヤーやったりしていたので。メイン言語はユニティを使ったC#での開発。コンポーネントを組み上げるだけでなく、スクリプト言語を使った開発も得意です。ぜひメンバーに参加したいと思うのでよろしく。
真鍋:まだ、そんなこといってる、いい加減にしろ、ぶつぶつ。
板垣:話が聞けてよかった、前向きに検討しよう。で、質問だがなぜ、今日の待ち合わせ場所に鉄砲坂を選んだんだ、ニンクリ物語を読んでいるなら、俺たちのミーティング場所は増上寺、東京タワーの下ってわかっているはずだが
桐太:いちおう、まだ中学生なんで、今は学校が昼休み、学校の近くの方が待ち合わせに都合が良かったからかな。おや、そろそろ昼休みが終わる、ぼくは学校に戻ります。結果はメールで連絡してください、ではぼくはここで失礼します。
ガチャガチャガチャ、凄まじい音をさせながら、桐太郎がファミリーマートの方面に戻っていく。
板垣:桐太郎、なかなか好青年じゃないか。まだ中学生なのかな、初々しい感じがいいな。
じぇ:なんか、にぎやかですねっていうか、騒々しい。あれって桐太郎君の足元から音がしている。いったい何なんでしょうね。
板垣:あれは鉄下駄って言って、柔道家が己の力を鍛錬するときに使う特別なトレーニング用具だ。最近は見なくなったけどな。
じぇ:騒音で近所迷惑ですね。ちょっとついていって様子を見てきます。
板垣:俺も行くよ、早く行かないと見失うかもしれない。
じぇーんとニンジャ板垣が桐太郎を追いかけて進むとそこには校門が。
門には「麻布中学校・麻布高等学校」って看板がある。左には高等学校の表札、右には中学校の表札があるが、門自体は共通らしい。
板垣:麻布学園、なんか噂に聞いたことあるぞ、どうやら、桐太郎はここの学生なわけだな。
じぇ:ニンジャマスター、桐太郎がいま、校門の前で鉄下駄を脱ぎましたよ、鉄下駄を手に持って入っていきました。あれはなんの儀式なんでしょうか。
板垣:おおおお、以前聞いたことがある。麻布高校には三禁というのがあって、これだけは絶対にやっていは行けない行為、それをまとめたものが麻布三禁。その中には、鉄下駄を履いて構内に入らないというのがあったと思う。
じぇ:そんな規則があるんですね。厳しい学校。鉄下駄は手に持って入ったから、麻布三禁にはあたらないですね。
板垣:まあ、桐太郎が、ウメハラや、トキドを排出した学校の学生なら、ゲームのプログラムくらいできるだろ。クリムゾン真鍋はどう思う。
真鍋:そりゃそうでしょう、そんなのできるに決まってる、しかし、この安易な展開、全くもって不愉快、そう思いませんか、ニンジャ板垣。これなら、わざわざバンガロールとか恐山とか行く必要なかったわけだし…。だいたいじぇーんも白々しい。そこまで空気読まなくてもいいと思うんだが。
じぇ:すみません、マスター。
板垣:どうして、クリムゾン真鍋はそんなに機嫌が悪いんだ、日ごろ温厚なクリムゾン真鍋らしくないぞ。
真鍋:そりゃそうでしょう、桐太郎ってやつ、あれは私の息子です。私が4歳の頃からゲーム制作の基礎を教えてきたんだから、プログラムくらいできて当たり前です。
板垣:えええええ、そうなんだ、それでクリムゾン真鍋がこんなに機嫌が悪かったんだな。
桐太:お父さん、お父さん、お父さん…。
板垣:おお、桐太郎くんか、なんの用事だ、ちょうど、君を仲間にいれる相談をしていたところだ。で、クリムゾン真鍋、桐太郎を仲間にいれるってことでいいよな。
まあ、この酔っ払いが集う、暗黒プロジェクトに家族を巻き込むのは不本意ですが、プログラマーがいないのも事実だし、専務のお告げもあるし、まあ仕方ないですね。
家族思いのクリムゾン真鍋ならではの悩みだな、まあ、俺たち4人で力を合わせて、凄いゲームを作ろう。よろしく頼むぞ、桐太郎くん!
真鍋:一つだけ、条件がある。桐太郎が名乗っていた、加納桐太郎という名前、いまのお前には重すぎる。お前はまだただの白帯、柔道界で名誉ある加納の名前を名乗るには小物すぎる。加納桐太郎を名乗るのは、黒帯を取ってからにしろ。
桐太:せっかくいい名前を思いついたのに、ぶつぶつ、じゃあ、白帯の間のぼくの名前、ニンジャ板垣さんが考えてください。ぼくは、ずっとニンジャ板垣のつくったゲームをプレイしてきました、大ファンです。ニンジャ板垣がつくったゲームはすべてクリアしています。ぼくの名前は、ニンジャ板垣さんがつけるべきです、ゴッドファーザー板垣さん。
板垣:わかった、桐太郎、喜んでゴッドファーザーになろう。お前に新しい名前を授ける。お前の名前は…、「チョモランマ桐太郎」どうだ、素晴らしい名前だろう、世界で一番高い山の名前だ。
桐太:わかりました、では、これからは、チョモランマ桐太郎でいきます。
じぇ:よかったね、チョモくん。
桐太:その呼び方、嫌だな。なんか頭悪そうな語感が…。
真鍋:だまれ、チョモ。せっかくニンジャ板垣がつけてくれた名前、ありがたく感謝しろ、我が息子よ、今日からお前のことはチョモと呼ぼう。
諦めたのか、急に機嫌が直ったクリムゾン真鍋。じぇーんも桐太郎を知らないフリしなくて良くなってホッとしている気配が伝わってくる。
板垣:ついにプログラマーが見つかった、グラフィックは美術大学出身のじぇーん、よろしく頼むよ。シナリオ、ゲームシステム、グラフィック、そしてプログラム。ひととおり、揃ったわけだ。
こうして、新しくプログラマーを迎え、めでたく、ニンジャクリムゾンチームが4人のメンバーをそろえ、完成したのでありました。
次回に続く。