第10回:新しい司令官着任。

ピロロン、メールの着信音がする。

真鍋:誰だろう、なんか嫌な予感がするメールの着信音だな。誰からか見てくれないか、じぇーん。

じぇ:イエッサー、あれ、よくわかりませんが、WNUからって書いてますね。

真鍋:WNU…ああ、世界ニンジャ連合ね、またややこしいメールのような気がする、読み上げてくれますか。

じぇ:はじめてメール差し上げます。私が世界ニンジャ連合極東支部に新しく着任した、司令官のハナサカです。前任者から話は聞いてますので、一度世界ニンジャ連合極東支部にお越しいただけませんでしょうか、よろしくお願いします。

真鍋:言い方はすごく丁寧だが、要するに挨拶に来いってことだな。なかなか強引なオファだが、極東司令官ならそれくらいの強引さは必要か。我々の開発室は冷蔵庫にハイボールが大量に入っていたりかなり庶民的な雰囲気だから、ここに来られてうだうだ言われるのも不愉快だしこちらから行くほうが気が楽だ。

じぇ:そうですよね、そもそも、このハナサカ司令官が酔っぱらいかどうかが問題ですよね。まず、こちらから出向いて相手の様子を見るのは営業の基本ですしね、マスター。

真鍋:そうと決まったら、さっそく極東支部に行くことにしよう。で、チョモはどうする、一緒に行くか。

チョ:俺は今日は鉄緑会の講習があるから行きません。訳の分からない支部にいってる時間はないんです。

鉄緑会とは、首都圏で有名な、知る人ぞ知る、東大受験に特化した現役高校生のための学習塾である。生徒の半分以上が東大に現役で合格するという抜群の実績を誇るが、入塾テストは極めて難しい。「出典:近代芸無辞典より」

真鍋:そうか、鉄緑会は東大予備校として大事だからな。しっかり勉強して、その成果をゲーム業界に還元するようにな。

ちょ:ウィーッす。

真鍋:じゃあ、さっそく出発しよう、じぇーん、行き方は思いついたか。

じぇ:羽田空港から、セントレアまで飛行機、その後近鉄特急の特別電車、ひのとりを乗り継いで2時間位ですね。

真鍋:おお、あの高級シートで有名な近鉄特急ひのとりに乗れるとはラッキー、さっそく出発だ。ぜひともひつまむしを食べよう。

じぇーんと、ひつマムシを食いながらひのとりではしゃぐクリムゾン真鍋。ついに指定された場所に到着する、クリムゾン真鍋とじぇーん。

じぇ:マスターおかしいですね、指定された極東支部の住所は、ここのはずなんですが、それらしい建物が見当たりません。

真鍋:花咲青果市場って書いているな、これはどう見ても違うだろ、もう一度メールを確認してみろ。

じぇ:どうみても、ここです。それより、メールにはハナサカ司令官と書いてましたよね、ここが花咲青果市場だから、司令官の親戚の家かなんかじゃないんでしょうか。

真鍋:まあ、せっかくだから入ってみよう。こんにちわ、ハナサカ司令官はいますか。

謎の人:私がハナサカ司令官だ、これからは、ニンジャ花咲と呼んでくれ。世界ニンジャ連盟から、極東支部長として赴任してきた。よく来てくれたクリムゾン真鍋。これからは極東支部長として、ニンジャ世界発展のために、全身全霊戦うつもりなのでよろしくな。

真鍋:そうなんですね、ニンジャ花咲。しかし、メールとだいぶ言葉遣いが変わりましたね、多重人格か何かですか。

花咲:これはこういうものだ、俺様はメンタルがプリンなんでな。メールでは、弱気な人格がでて馬鹿丁寧になるが、対面すると本来の性格が出てくる。お陰でプリンのメンタルが壊れずに済んでいる。

真鍋:そう言うことなんですね。で、ニンジャ花咲はゲーム制作の経験はありますか。

花咲:そんなものは全くない、だがこれまでこの地よりたくさんのニンジャを養成して送り出してきたから、俺にとってはゲーム制作なんてチョロいものだ。困ったことがあれば教えてやるから、遠慮なく聞きに来い。

真鍋:それは頼もしいですね、近鉄特急にのってきます。ここって、忍者の本家である、伊賀と甲賀の中間にあるんですね。

花咲:そうだ、ここはココモリ村と言って、特別な位置にある。伊賀と甲賀の間に位置して、どちらにも影響を受けずに中立の立場で行動する、それがココモリ忍者の掟だ。

真鍋:そうなんですね、単にマイナーな系列なんじゃなく、独立性を保って権力を維持する永世中立な村なわけですね。

花咲:そうだ、他に質問はあるか。

じぇ:ニンジャ花咲マスターはどんな仕事をされているんですか。

花咲:きみがじぇーんか、よくみればなかなか美しいオナゴはんだな。

じぇ:ありがとうございます

花咲:本来は身を隠す仮の仕事のことは教えないのだが、きれいなオナゴはんに免じて教えるとしよう。私の仕事はこのココモリ村で、青果市場をやっている。メインに扱っているのは果物、特に夏のスイカは利益率が高く、売上の大半は7月と8月に集中している。ココモリ村は伊賀からも甲賀からも程良い距離で離れている小さな村だが、この一帯のスイカは、ほぼ私が流通させている。年に二ヶ月くらい働けば十分だから、その時期以外は世界ニンジャ連盟の活動を無理なくできる、スイカも食い放題だしな。

真鍋:しかし、じぇーん。またなんか怪しいやつがでてきたな。どうして俺の周りには変人ばかり集まってくるんだろう。

じぇ:もともとマスターの周りには怪しい人がたくさんいますから、こんなものではないでしょうか。そもそも、マスター自体が怪しい存在なのが理由なのでは。

真鍋:まあ、それには一理ある。昔から俺は変人コレクターって言われていて、周りに集まってくる友人たちもほとんど全員が変人だったよ。じぇーんも、その意味では十分変人なんだが…

じぇ:あまり嬉しくなですね、変人というのは。

花咲:さて、クリムゾン真鍋。今は7月でスイカの出荷が最盛期、人手が足りないから、ぜひ市場の仕事を手伝ってくれ、ゲーム制作の話は、夏が終わってからでいいだろう。

じぇ:賛成です、マスター。私もちょうど夏休みで国に帰ろうと思っていたところです。マスターがしばらく自宅にいないのは好都合ですね。

真鍋:まあ、しかたないな、せっかくだからスイカの流通の仕組みでも学習するとするか。いいですよ、ハナサカ司令官。半月くらいここに滞在して、スイカ市場を手伝うことにします。

それは良い心がけだ、人手不足が解消してよかった、よろしく頼む。

スイカも喜んでいますね、よかったよかった。

新たに現れた世界ニンジャ連合の新たな司令官、ニンジャ花咲。突然スイカ市場を手伝うことになったクリムゾン真鍋。ガラスの腰は大丈夫なのか…次回をお楽しみに。