真鍋:暑いな、暑すぎる、この市場はエアコンは動いてないのかな。電気代ケチっているのか、故障なのか、夏の夜に止まるとは、使えないエアコンだ。
そう呟きながら、体を回転させる真鍋。ドスンと音がして地面に落下する。
真鍋:急に高いところから落ちたようだ、肩が痛い。はて、私はなんでこんな所にいるんだろ。
そういいながら、スマホの画像をみるクリムゾン真鍋。昨日撮影したココモリ村の写真を見ると記憶が蘇ってくる。
花咲:俺から説明しよう。ニンジャの世界では、エアコンを使わないのが標準だ。厳しい修業によって火の中をくぐり抜けたり、極寒の水に潜ったりして苦しみを喜びに変える、それがニンジャだ。決して電気代をケチってるわけではない。
真鍋:あれ、そんなところにいたんですか、ニンジャ花咲。私は特にニンジャの修行に来たのではなく、スイカ市場で人が足りないと言ってたから手伝っているだけなんだけど。
花咲:新しい世界に入ったら、そこの風習に従うのが人の務め。まあ、諦めてこの環境に慣れてくれ。では良い睡眠を。
頭をゆっくり振りながら、近くにおいてあるスイカのかけらを口にする真鍋。
真鍋:やっと昨日の経緯を思い出した、ニンジャ花咲の招きでココモリ村にきて、そこでニンジャ花咲のスイカ卸の手伝いを頼まれて市場の事務所に泊まったんだな、やれやれ、暑いのは予定外だ。
真鍋:ニンジャ花咲もせっかく現れたんだから、ごちゃごちゃニンジャの道を説いてる暇があればエアコンのスイッチを押してくれればいいのにな。
プォプォ、トラックのクラクションの音がする。
真鍋:これは、スイカの納入トラックがついた合図だな、昨日説明を受けた気がする。トラックが到着するとスイカを車から降ろす作業があるんだったな。やれやれ、仕事でもするか。
謎の運転手:お疲れさん、スイカ持ってきたぞぉ、今日は少なめで800個やんけ。ラッキーやな、早速スイカ降ろし始めようやんけ。
真鍋:あれ、なんか君は見たことあるな、この特徴ある喋り方も聞き覚えが…。と思えば、君はなんと竜田さんではありませんか、これは久しぶり、ここで会うなんてなんて奇遇。
竜田:あれ、なんとまあ、そこにいるのは真鍋さんやんけ。ここ数年音沙汰ないと思ったら、市場で働いてるとは思わなかったやんけ。さては新作ゲームが大コケして売れなかったから、夜逃げして市場に身を隠しているって話でっか。
竜田と真鍋は同じ大学で学んだ学友だ。当時からオトクの道を極めようとしていた竜田の緻密な行動様式は、適当な行動で自滅することが多かった真鍋にとって新鮮な驚きであり、その後のゲーム制作においても大きな影響を与えたのである。
真鍋:まあ、おおむねそれに近い話ではあるが…。それより、竜田さんはなんでここに。というか、君の大学時代の別名はオトクハンターTだったな。オトクのことならワイに聞け、が口癖だった竜田さん、これからはハンター竜田と呼ぶか。でハンター竜田はなんでスイカ運びのトラックを運転しているんだ。
竜田:オトクのことならワイに聞け。夏はオトクな話が少ない、夏枯れといって、株も為替も証券も動きが止まる。それなら、この季節はスイカを扱うのが一番やんけ。じゃあ、スイカパーティでも始めるか。
そういいながら、持ってたスイカをワザと地面に落とすハンター竜田。
竜田:おおっと、手が滑った、ひびが入ったから、これはもう売り物にならないやんけ。捨てるのももったいない、仕方ないから食うとするか。
そう言いながらスイカの真ん中の甘いところだけをレンゲですくって贅沢に食べる竜田。
真鍋:そのレンゲはどうしたんだ、たまたま持ってたのか。
竜田:そうそう、たまたま持ってたやんけ。世の中、こういいこともあろうとあらかじめ用意しておくのが、真のオトクハンターの心構えでんな。それを確実に実行する、それがオトクハンターの生き様だ。
真鍋:ニンジャの生き様じゃないのか。ややこしくなったが、ハンター竜田はニンジャではないみたいだ、で、花咲はニンジャっぽくないが、ニンジャ。だいぶ頭が混乱してきた。
竜田:スイカパーティも終わったし、早速、仕事…。俺がトラックの荷台からスイカを下に投げるから、クリムゾン真鍋はそれをキャッチしてくれ。少々落としてもいいが、落としたスイカは食わないといけないから、あまりたくさん落とさない方がいいやんけ。
真鍋:私はガラスの腰だし、球技は苦手だ。できれば控えめにスイカを投げるピッチャーの役をやりたいんだが。
竜田:まあ、投げるほうが腰の負担は少ないな、じゃあ交代しよう。
真鍋:トラックの荷台から地面まで約3メートルの高さ。6メートルはスイカを投げる計算だ。初球はストライクを決めたいものだな。
そう言いながら、2時間かけて800個のスイカを市場に並べていくクリムゾン真鍋とハンター竜田。時々トラックを移動させながら、10個近いスイカの山ができていく。
竜田:これで最後でんな、お疲れさん。
真鍋:いや、終わった終わった。結局一つも落とさなかったから、無理にスイカ食う必要がなくなった。さすがオトクの神様、ハンター竜田。無駄な行動は一つもないな。
竜田:じゃあ、わしは帰るやんけ。新しいオトクの情報掴んだら、すぐ連絡してくれ。
そう言い残して竜田は轟音をたててトラックで去っていく。事務所に戻ってテレビをつける真鍋。疲労のあまり、そのまま椅子に座って居眠りを始める。テレビが放送終了となり、あたりは真っ暗になる。そんなときに暗闇の中から声がする。
真鍋:なんだか、先程落としたスイカのあたりから声が聞こえるようだ。スイカのお化けでも出たのかな。
謎の声:ひさしぶりですね、プレジデント真鍋。覚えてますか、私のことを。
真鍋:もちろん覚えている。覚えているが、覚えたくない。でも覚えている。きみはスナブリン、10数年前、君とは色々あったが、そのときに決着が着いたはずなんだが…。私の前には現れるなってね。それなのになんでまた私の前に現れるんだ。
「出典:近代芸無辞典より」
時は来た、それだけだ。ゲームを作り始めた君を迎えに来た。
そのセリフ、最近よく聞くな。君とは永遠に会いたくない。少なくとも、今はまだ会う必要はないだろう。
10数年ぶりにスナブリンと再会してたじろぐクリムゾン真鍋。スナブリンが現れた目的は、クリムゾン真鍋のゲーム制作はいったいどうなるのか。次回をお楽しみに。