第12回:この場所はいつか来た場所。

スイカ市場に滞在中の真鍋の前に突然現れたスナブリン。10数年ぶりに現れるスナブリンにたじろぐクリムゾン真鍋。

スナ:プレジデント真鍋、名前を変えたそうですね、今の名前はクリムゾン真鍋らしいので、これからはそう呼ばせてもらいます。私はあなたがここに来るのをずっと待っていました。

真鍋:おかしいな、10数年前に弁天町のオーク200で会ったスナブリンと君は違うのか。あの時、あの場にいたなら私をずっと待っていたと言うのは辻褄が合わないんだが。

スナ:その通り、私がスナブリンになったのは割と最近のことですから。我々スナブリンはあなたも知っている通り、あちこちにたくさん存在しています、そして今でも増え続けています。新しい技術が開発されるたびにビジネスモデルが変わっていきます。そうすると新しくスナブリンが生成される。その仕組はあなたもよく知っていますよね、クリムゾン真鍋。

真鍋:まあ、そうといえばそうだ。私は1995年の時点では最もスナブリンに近い存在だったからな。

スナ:それなのにあなたはスナブリンになりませんでした。そうこうしているうちに2010年代のスマートフォン時代がやってきて、劇的なゲームチェンジが起こりました。その結果、コンソールを主戦場としていた私があなたより先にスナブリンになってしまうとは、皮肉なものです。

真鍋:世の中、そんなものさ。

スナ:あなたはこの場所のことを全く覚えていないのですか。時代はバブル景気の頃です。

真鍋:1994年にデスクリムゾンを作って以来、それより前のことは殆ど覚えていない。バブル景気と言えば1980年代だな。なにか、心にシャッターが作られて隠されている感じなんだが。

スナ:では教えましょう。あなたは大学生の頃、ここに2週間ほど住み着いてスイカ運びのアルバイトをしていたはずです。だから、スイカは受けるより投げるほうが楽ってことも知っていましたね。

真鍋:そうだな、確かに私が大学生の頃、ここでスイカを運んでいた記憶がある、すっかり忘れてたが今思い出した。

スナ:せっかくだから、あなたのその時代に私が案内します。あなたは麻雀とドライブに明け暮れ、まだコンピューターに触ったこともなかった頃です。

真鍋:それは興味深い話だ、ぜひ。

突然、スナブリンと共に白い光に包まれて、時空の谷間を旅する真鍋。

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ちょうどスイカを運び出すトラックが到着したらしい、しばらく経つと二人の男がリズムよくスイカを投げ始める。その姿を市場の天井に取り付けた扇風機から広場を俯瞰してみるスナブリンとクリムゾン真鍋。

真鍋:あれが大学生の頃の私だな、スイカをキャッチしているのがそれらしい。赤のトレーナーを着ているから間違いない。当時から赤は私のイメージカラーだ。どうやら当時はガラスの腰ではなかったらしい。落とさず順調にスイカをチャッチしている。

そういったとたん、真鍋がキャッチに失敗してスイカを落とす。あたり一面に赤い破片がぶちまけられる。

スナ:スイカを投げているのは誰だか解りますか。

真鍋:なんか記憶がはっきりしない、もう少しで思い出しそうなんだが。

スナ:投げているのは私です。だけど、今は気にしなくていいです、そのうちに詳しく思い出すでしょう。

真鍋:しかし、キャッチャー下手くそだな、さっきからいくつもスイカを落としている。投げるのが下手なのか、受けるのが下手なのか、我々がここから眺めているのが暗黙のプレッシャーになっているのかもしれないな。

スナ:せっかくだから、スイカの軌跡に干渉して手伝ってみるのはどうですか、過去の世界に直接干渉することはできませんが、このコントローラーを使えば影響を与えることはできます。

そういいながら、ファミコンのコントローラーを渡すスナブリン。

真鍋:そうだったのか、それまで順調にキャッチできていたスイカを急に落とすようになったり、その逆が起きるのは、外部から干渉されていたんだ、全く気がつかなかった。

スナ:世の中とはそういうものです、本人が知らないだけで、周りや過去や未来からの干渉を受けながら時間というのは進んでいくものです。

真鍋:あれ、スイカが予想外の動きをする、思い通りにコントロールできなくなった、なぜだろう。

スナ:ふぁふぁふぁ、それは私も操作してるからです、この2Pコントローラーでね。

真鍋:スナブリン君、予告なく干渉するのは止めてくれないか。周りに迷惑だ…。

突然、スイカがすさまじい勢いで加速し、キャッチャーをしていた大学生時代の真鍋の顔面を襲う。受け損なった真鍋は顔面から血を流して倒れ込む。

真鍋:なんて酷いことをするんだ。なるほど、瞼の上にできた傷はこの時にできた傷、いまもここに残っている。自分の失敗かと思っていたが、君のせいだったのか。

スナ:これはゲームなんです、スイカを投げるゲーム。ゲームの世界では下手なやつが悪い。安心してください、もうすぐゲームオーバーです。文句があるなら初めからもう一度スタートすればいいだけのこと。

真鍋:そんなことができるのか。

スナ:飛ばせないいロゴを見ればいいんです、その間に、裏のジョブで新しくステージを構成する準備をしているわけですね。

真鍋:そういやそうだったな、ロゴが飛ばせないのはそういう裏の事情があったな。しかし、スイカを投げていたのは君なんだろうが名前が思い出せない。

スナ:では、そろそろ教えてあげましょう。今は無きダイナウエア、私はそこであなたと一緒にプログラマーとして働いていました、そして夏休みにあなたの誘いで一緒にスイカを運ぶアルバイトに来ました。

ダイナウェアとは、クリムゾン真鍋が大学時代にアルバイトを通じてプログラムの腕を磨いた会社である。ダイナパース、デスクUP、ダイナCADなど優れた製品を沢山排出したコンピューター界の歴史に残る会社である。藤井社長、最近お見かけしませんがお元気でしょうか。 「出典:近代芸無辞典より」

記憶がかすかに蘇るクリムゾン真鍋。しかし、視界がぼんやりして集中できない。

スナ:そこでゲーム作りについて私は熱く語ったものです。当時のあなたはゲームをプレイするのは好きだったが、作るのには全く興味がなかったですからね。

真鍋:そうだった、当時は未来のエネルギーについて考えていた。無限のエネルギーを人類は手に入れられないのか。もし手に入れることができれば、戦争など起こさず、すべての人が幸せになれるのではないかと密かに思っていた。だから、ゲームを作るということは遠い夢の世界だった。

スナ:私は大学を卒業するとダイナウエアを去り、ゲームを作るためにナムコに入社しました。そこで十数年間懸命に働き、それなりにいいゲームを作ったと自分でも自負しています。そしてある日、思うところがあって私は仲間と共に独立して自分の会社を作りました。その会社はある程度成功したが、時代が変わって私の作るものは世間に通用しなくなりました、世の中スマホゲームが席巻し、本格的な据え置きゲームは脇に追いやられました。しばらくして、私の会社は行き詰まりました。そして私は最後の賭けに出た。すべての資金と情熱と時間を投じて最高のものを作りました、だが作品は全く売れず、私は敗北しました。そしてその失敗を私は自分の生命で償った。そして思いを残したままのスナブリンとなった私はここでまたクリムゾン真鍋と会えることを楽しみにしながらあなたが来るのを待っていました。

真鍋:そんな経緯があったのか、私自身は全く知らなかった。

スナ:私はあなたが羨ましい、クソゲー作って、のうのうと生き延びて、その後はその悪名を活かして有名タイトルの裏方に回り、そこでビジネスを成功に導きました。奇跡が何回も起きているはずですが、なぜあなたはそんなに悪運が強いんですか。

真鍋:自然体で生きているだけだ、多くを望ます、執着せず、質素に質実剛健に生きている、それが私のモットーだ。

スナ:ならば、あなたはもうゲームを作る必要はないでしょう。あなたも知っている通り、ゲームを作るということは敗北したとき私のようなスナブリンになるということ。わざわざスナブリンになる必要性をあなたには全く持ち合わせていないはずです、やり残したことは何もない。

真鍋:心残りはある、完全なデスクリムゾンを作りたい。それに当時の仲間でもまた一緒に作品を作りたい人は何人かいる、また彼らに会いたいものだ。

スナ:あなたは既に成功者です、あえて危険な冒険をする必要はありません、「人間なんてなるようにしかならん」。

突然真鍋の頭を覆っていた白い霧がスッと消え去る。

真鍋:君はタニムラくんだな、「人間なんてなるようにしかならん」、その言葉を聞いて思い出した。そして私ががなぜゲームを作る気になったのか思い出した。君がかつてここで私に熱く語っっていたこと、それが私をゲーム制作に興味をもたせ、ゲーム制作を始める元になったんだね。

スナ:どうやら、すべてを思い出したようですね、クリムゾン真鍋。では、またいつか会いましょう。

突然、スナブリンの姿が消えた。あたりに静寂が戻ってくる。

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花咲:おはよう、クリムゾン真鍋。よく寝られたか、スイカのお化けは出てきたのか。

真鍋:まあ、そのようなものが出てきたわけです。

花咲:大体の経緯は承知している。やはり運命からは逃れられないようだ、どうだ、デスクリムゾンの続編を作る気にはなったか。

真鍋:どうやら、それがやり残した最後の使命みたいですね、そろそろ覚悟を決める時が来たかもしれません。

花咲:それは良いことだ。

真鍋:チョモがどう考えるか、それに、以前一緒にデスクリムゾンを作った仲間たちの協力も必要です。困難な道だとは思いますが…。

それでもクリムゾン真鍋がデスクリムゾンを完成させるのは避けられない宿命みたいだな。

そうかも知れません、チョモにも自分の宿命を受け入れる覚悟があるか…。

悩みながらもデスクリムゾンの完成版を制作する覚悟を決めたクリムゾン真鍋。制作はスタートできるのか、次回に注目。