第38回:純粋な血統の動物はどこに。

大雨の中を、軽トラではない軽自動車で辺戸岬に向かうハンター竜田とクリムゾン真鍋、それにじぇーんの三人。軽自動車の天井には土佐犬を入れる籠が載っている。

竜田:では出発するやんけ、その前に純粋な血をもった動物を捕獲しに行くやんけ、どこにいけば純粋な血をもった動物がいるのかクリムゾン真鍋が調べるやんけ。

真鍋:ええ、そういう話なのか、急に言われても困るな。沖縄の固有種というとヤンバルクイナとかだろう。とりあえずヤンバルクイナ保護センターに行ってみるか。

じぇ:私、ヤンバルクイナ見るの初めてです、凄く楽しみ~。

真鍋:クロニン田村の黒い野望が見え始めているのに、じぇーんはお気楽でいいな。

竜田:さっそく「ヤンバルクイナ生体展示学習施設、クイナの森」に到着したやんけ、さっそく中に入って見るやんけ。

真鍋:おお、いたいた、なかなか可愛い鳥じゃないか、あちらの枝の影からこちらをうかがってる子がいるな、こっちにくるぞ、気をつけろぉ。

竜田:ヤンバルクイナはおとなしい鳥だから、気をつけなくていいやんけ。

じぇ:なんか、鳥なのにニコニコしてますよ、ヤンバルクイナって愛想がいい鳥なんですね。

真鍋:鳥は爬虫類の進化型だから、笑わないだろ、そもそもニコニコしているというのは気のせいだよ、じぇーんくん。

じぇ:私には笑ってくれたような気がします。相手を見てるんじゃないですか。

真鍋:私は鳥が嫌いだ、昔からニワトリとか、セキセイインコとか、カナリアとか、いろんな鳥類を飼ってきたが、最後に気がついたのは、私は鳥が嫌いだ…、って事実だけだった。

じぇ:なんだか悲しい子供時代だったんですね、マスター。

真鍋:いまでも動物より、機械に愛情を感じる傾向がある。カナリアより、スウェージロックみているほうが、心が休まる。

竜田:スウェージロックみて萌えとは、ただの変態やんけ。なんでそんなにひねくれてしまったんだ、クリムゾン真鍋は。

真鍋:そりゃ、大学時代に原子動力実験棟で、高速増殖炉用の液体リチウムループの研究をしていたとき、厳密に言うと研究室の同僚が液体リチウムループの研究をしていたのを見ていたときに、スウェージロックの締め方一つで、大事故になるという現場を見てきたからな。トルクレンチを使って締めても、微妙なさじ加減で漏れたりする。

じぇ:そんなに微妙なものなんですね、リチウムは。

真鍋:締めすぎても、締めなさすぎてもだめ。ちょうどよい締め方を指先の感覚で覚えることが大事。

竜田:ワイは計算機センターにいたからよくわからんが、厳しいノウハウがあるんやな。

真鍋:メタルタッチで接触する、微妙な部分に髪の毛程度の傷があるだけで、リチウムが漏れる原因になる。リチウムは漏れると厄介だ、床のコンクリートに落ちると、コンクリートを溶かして水素を出して反応するから、そこで火災が起きる。とにかく、液体金属には気をつけろよ、って話。

じぇ:マスターって大学時代から結構ややこしい経験してたんですね。

真鍋:経験していた人を見ていただけだ、私自体は面倒なことは嫌いだ。

じぇ:なんとなくわかります。それで、動物の心が解らない、悲しい大人になってしまったんですね、可哀想なマスター。

真鍋:まあいいよ、その話は。で、さっそくだが、さっさとヤンバルクイナを1匹もらって帰って籠に入れて辺戸岬に向かおう。

じぇ:だめですよ、マスター。ヤンバルクイナは保護動物の中でも最上級に入る国の天然記念物。そんなに簡単に連れて帰れないですよ。

真鍋:なんだ、それなら最初からそう言ってくれ。リチウムの話とかする必要はないだろ、ぶつぶつ。

竜田:わざわざ保護センターがあるくらいだから、最初から無理やんけ。それより、ヤンバルクイナがうずらみたいな感じなのはわかったから、沖縄固有のうずらを探して持っていけばいいんじゃないか。

じぇ:うずらなら、私の故郷、ミンダナオ島でもたくさん飼っていました、うずらの卵を手に入れるのに。

真鍋:じゃあ、沖縄固有のうずらを探そう、たぶんうずらなら天然記念物ではないから、そこあたりのペットショップで買えるんじゃないか。

竜田:ちゃうちゃう、ちゃうやんけ。うずらは愛知県が繁殖の中心。沖縄固有種のうずらというのは簡単に手に入らないやんけ。

じぇ:ミンダナオ島から持ってきましょうか。沖縄からミンダナオ島は結構近いです。

真鍋:なんか、収拾がつかなくなってきたな、さあ。どうしたものか。面倒だし、八熊伝のことは忘れて、沖縄でリゾートライフを楽しんで帰るっているのはどうだ。

竜田:それはだめやんけ。八熊伝がうちの蔵にあることをクロニン軍団に知られてしまったし、このままクロニン軍団がスルーしてくれるとは思えん。とにかく異世界への扉を開くところまではやるやんけ。

じぇ:私も竜田さんに賛成です、諦めないで行きましょう。

真鍋:しかし、純粋な血を持った動物をどうやって手に入れるんだ。沖縄は固有種の宝庫、天然記念物とかに手を出すと面倒なことになるから嫌だ。

じぇ:そういえば、去年石垣島でクロニン田村を見かけたときに、動物の剥製を運んでましたよね、あれが異世界への扉と関係あるんじゃないでしょうか。

竜田:八熊伝には、生きた動物を連れて行かないと駄目だと書いているやんけ。クロニン田村は異世界へ向かうための実験のために集めていたんだろうな。

真鍋:ということは、クロニンはまだ異世界にいく方法を知らないということになるが。

竜田:そこは微妙なところだ、それより、われわれの動物集め、どうするやんけ。このままぼーっとしながら軽自動車を走らせていても展開がないやんけ。

その時、「ガガガン」と車の近くから音がする。

竜田:今なんか、床の方から音がしたやんけ。

じぇ:車停めてください、私が見てきます。

竜田:なんかに衝突したみたいやんけ。

異音の正体を確かめるために車を降りて足早に戻っていくじぇーん。

真鍋:おお、じぇーんが帰ってきた。

じぇ:どうやら、この子と衝突したみたいです。

竜田:なんや、黒豚の子豚やんけ。沖縄名産の黒豚。この近くの農場から迷子になってたのかな。

じぇ:あたりどころが良かったのか、特に大きな怪我はしてないみたいです、良かったですね。こんな可愛い子を轢き殺さなくて。

竜田:まったくそうやんけ。

真鍋:せっかくだから、この子を沖縄における純粋な血をもった生き物として同行させるというのはどうだ。

竜田:それもそうだな、この感じは琉球黒豚の子供。ある意味純粋な血を持った生き物と言えないこともないやんけ。

もとが家畜というのが多少気になるが、まあいいことにしよう。

家畜でも可愛いからいいでしょう、賛成です~。

真鍋:ということで、辺戸岬に向かおう。雨がもっとひどくなる前に。

適当な家畜の黒豚を手に入れて、辺戸岬に向かう三人。雨脚が強くなる中、八熊伝の伝説の通り、異世界への扉は本当に開くのか。次回をお楽しみに。