第39回:いわゆる異世界へ…

偶然、黒豚の子供を手に入れて、辺戸岬に向かう、ハンター竜田とじぇーん、そしてクリムゾン真鍋。大雨の中、辺戸岬に到着する。

竜田:着いたやんけ、辺戸岬。あれ、急にあたりが明るくなって…。雨がやんだみたいだ。

真鍋:先に見えるのは与論島ではないか、さすが沖縄最先端。

竜田:そうやな、あれはまさしく与論島、この海峡が沖縄県と鹿児島県を分離する境と思うと歴史の意味を感じるやんけ。

真鍋:以前は、日本の最南端は与論島、そこからアメリカに統治された沖縄をみるのはどんな気分だったんだろう。

じぇ:分断された歴史の島なんですね、与論島は。

真鍋:大学生の頃、与論島に初めて行って、島に一つしかない信号機というのを見学して、その後サトウキビ畑の間をぬってできた農道を原付バイクで走り回ったものだ。

じぇ:いわゆる、昭和の暴走族ってやつですね。

真鍋:まあ、根本的な思想には共通するものがあるな。圧倒的な開放感とかね。

竜田:雨も上がったことだし、灯台を目指していこう。しかし、この黒豚の檻は重いな。

じぇ:それなら、檻は車に置いといて、この子は私が抱っこしていきます。もう少しでトンカツにされたかもしれないのに、脱走できて良かったね。

真鍋:黒豚の人生なんて儚いものだ、我々も生きている限り命を燃やし尽くさねばならん。

じぇ:この看板の横を通って先に進むと灯台があると書いてます。

竜田:黒豚の檻を持たないと、スムーズに進むやんけ、前に見えるのが辺戸岬の灯台やんけ。

出典:海上保安庁ホームページ

真鍋:では早速、始めようか。八熊伝の指示に従ってハンター竜田は灯台に登っていってくれ、黒豚の子供はじぇーんが連れて行くだろう。灯台の上に到着したら、何も考えずにジャンプだ。白くて長いものから飛び降りると異世界に行けるはずだ。

竜田:それは違うやんけ、異世界に行くのはクリムゾン真鍋やんけ、ワシはまだ蔵の片付けが残っているから、それが終わってから追いかけるやんけ。

真鍋:異世界には、ちょこっと行ってすぐに戻って来れるのか。1時間位で戻ってこれるなら、ホテルのバフェに間に合うから問題ないんだが。

竜田:八熊伝によると、異世界とこちらでは時間の進み方が違うらしい。ということで、戻ってくるのは明日の夜になるやんけ。

真鍋:そりゃ困る、今日はあんまり飯を食っていないし、ホテルのバフェを楽しみにしているのに、明日帰って来るのでは困る。ここは、この大役は竜田さんにお任せする。

竜田:そりゃ困ったな、じぇーんちゃんはどうや、異世界に行くのは楽しいやんけ。

じぇ:ミンダナオ島からきた私にとっては、日本にいる事自体がすでに異世界に行ってるわけで、ここから更に異世界に行くと、元の世界に戻ってしまいます。

竜田:そりゃ困ったな、じゃあ、とりあえず三人で灯台の上に上がって、そこで誰が行くか決めるやんけ。ここはモノポリーで決めるということにするやんけ。

真鍋:モノポリーは私の最も得意なテーマである、いつでも受けて立とう。

風雪の中、辺戸岬の灯台に上がる三人と一匹。

竜田:では、頂上についたから早速モノポリーを始めるやんけ、じぇーんちゃん、まずこの紙幣を配ってくれ。

じぇ:風が強くて紙幣は無理です。ここはペイペイで精算するのはどうですか。

真鍋:それだと、ゲーム賭博になるだろう、現金賭けるのはだめだ。

じぇ:確か日本の法律では、現金を賭けた賭博は駄目だけど、これは電子マネーなので良いのではないでしょうか。

竜田:硬いこと言わんでええやんけ、もともと屁理屈こねるのがクリムゾン真鍋の得意技、屁理屈こねてると夕飯のバフェに遅れるやんけ。

真鍋:そりゃ困るな、じゃあ、ここは現実出来な解決で、ペイペイを使って精算しよう。しかし、ボードを並べる台がないな。

竜田:この黒豚の背中にボードを貼り付けるやんけ、いまはぐっすり眠っているから、少々テーブル代わりに使っても問題ないやんけ。

真鍋:それもそうだ、では早速、ボードを黒豚の背中に固定してカードを配って…。

じぇ:サイコロはどうしますか。ちょうどこの子のご飯用にお茶碗を持ってきていますので、これ使いますか。

真鍋:それはいい考えだ、では早速私がサイコロをふるとして…、チンチロリン。おや、いきなり刑務所行きだな、なんとこれは不幸な。

竜田:次はワシの順番やんけ、チンチロリ~~~ン。いきなりボードウォークが取れたやんけ。

ボードウォークとは、モノポリーにおいて、最高の地代が得られる、ゲームの結果に大きな影響を与える土地のことである。シロートのモノポリーにおいては、ボードウォークをゲットすることがゲームの目的となることが多い。 「出典:近代芸無辞典より」

真鍋:なんか、インチキ臭くないか、いきなりボードウォークがでるのはおかしい。

じぇ:つぎは私ですね。と思ったら、急に風が強くなってきて…。ああ、大変、黒豚の子供が起きたみたいですね。

竜田:暴れたら駄目やんけ、ボードがゆらゆらして、ワシのボードウォークからコマがこぼれ落ちてしまう。

突然、空から一匹の黒い影が飛来する。

竜田:駄目だ、クリムゾン真鍋。カラスがワシのカードを全部持っていった。大混乱だ。

じぇ:黒豚といい、突然現れたカラスといい、なんかややこしいですね。マスターはカラスは嫌いですか。

真鍋:実は私はカラスはそんなに嫌いではない、鳩のほうが気持ち悪い感じだ。

竜田:ということで、モノポリーの結果により、異世界に飛び立つのはクリムゾン真鍋に決定やんけ。

真鍋:なんで、そういう結論になるんだ、納得行く説明をしてもらおうか。

竜田:刑務所に入ったのはクリムゾン真鍋だけ、じぇーんちゃんとワシは資産を増やしている。犯罪者のクリムゾン真鍋は、さっさと異世界に行ったほうがいいやんけ。

じぇ:もしかして、異世界は凄く楽しい所かもしれませんよ、竜宮城の話みたいに、美味しいバフェと美女に囲まれた、酒池肉林の世界かも。

真鍋:まあ、確かに私だけが刑務所に入ったわけだから、その話にも一理ある。竜宮城の話も確かにそうだ。ということで、ここは私が異世界に向かうことにしよう。

竜田:それは良い心がけだ、もし異世界が良いところだったら、電報でも送ってくれ、すぐに追いかけるから。

じぇ:では、準備しますね。この黒豚の子供を背中に乗せて…。しっかり固定して。

真鍋:背中は持ちにくいから、頭の上に乗せることにするよ。

その時、三人の後ろから黒い影が忍び寄る。いきなりクリムゾン真鍋の頭に乗せた黒豚を奪っていく。

黒い影:黒豚は確かにもらった、八熊伝に記載されていた、伝説の純血の動物が黒豚とは気が付かなかった。

真鍋:お前は、クロニン田村。突然現れて、異世界への鍵を奪っていくとは、失礼なやつ。

田村:奪われる方が悪いんだよ、さる高名なお方の指令により、純血な動物の剥製をたくさん集めてきたが、どうしても扉が開かなかった。まさか、黒豚とは思わなかった。

じぇ:それは違うんです、たまたま高速道路で轢かれそうになっていたのを助けただけで、その子はそんなんじゃありません。

田村:そんな言い訳が通用すると思うのか、甘いんだよ、てめーらは。

その時、ハンター竜田が、音もなくクロニン田村の後ろに忍び寄る。黒豚を取り返そうと揉み合う、ハンター竜田とクロニン田村。

竜田:お前だな、うちの蔵から八熊伝を持ち去った野郎は。うちの蔵を荒らすやつは許さんやんけ。

田村:ふふ、お前が竜田家、三十七代当主のハンター竜田。お前の蔵からは楽しそうなものをたくさん頂いた。

竜田:他にもものを持ち出していたのか、この犯罪者。

田村:我々忍者にとっては大事なものであっても、オトクしか興味がない竜田家当主にとっては不要なものだ、それらを我々が持ち出して、何が悪い。

その時、背後から巨大な動物が竜田と田村に突進する。激しい音と、鋭い閃光、そして二人の悲鳴とともに、あたりが光りに包まれる。

真鍋:一体何が起きたんだ、それに、ハンター竜田と、クロニン田村の姿が見えない。黒豚の子供も…。

じぇ:マスター、私にははっきり見えました。巨大なカバが二人の背後から突進し、黒豚の子供を咥えたまま、クロニン田村とハンター竜田を弾き飛ばしながらそのまま、灯台から崖の下の海に落下しました。

真鍋:そうだったのか、ハンター竜田、異世界に行ってしまったのか。クロニン田村も一緒に行ったのか。

じぇ:ハンター竜田が言っていた、八熊伝に書かれた予言。白くて長いものの頂上から純血な動物と共に落下すると異世界への扉が開く。この条件が成立したみたいですね。

真鍋:それは災難だな、ハンター竜田は蔵の片付けが中途半端なままで終わって、さぞかし残念だろう。

じぇ:突然現れたカバは、黒豚の子供を襲ったみたいですね。もともとカバは草食なのに、なんで黒豚の子供を襲ったのでしょうか。

真鍋:わからん、すべてが謎だ。

急に風が強くなり、モノポリーのカードが風に舞ってあたりを埋め尽くす。一枚のカードがクリムゾン真鍋の顔に張り付く。

真鍋:なんだ、このカードは…、これは、ボードウォークのカード。いったいこれは何を意味するんだろう。

じぇ:きっと竜田さんがマスターに助けに来てくださいって意味かと思います。

真鍋:むむむ、急にハプニングで私が異世界に行く話はなくなったが、竜田とクロニン田村、そして黒豚の子どもとカバが、異世界にジャンプしたのか…。

じぇ:なにか、よく見るとヒントがあるかもしれません。ボードウォークのカードをよく見てみましょう。

真鍋:よく見れば、カードの端っこに、文字が見えるが、小さ過ぎでよく見えない。

じぇ:見てみますね、どうやら、カルボニアに向かう…って書いてます。何なんでしょうか、このカルボニアと言うのは。

真鍋:異世界の名前がカルボニアということなのか…、それにしてもどんな場所なんだろう、カルボナーラならわかるが、カルボニアと言うのは聞いたことがない。

私も聞いたことがありません。もうすぐバフェの時間が終わりますね、戻るなら今すぐですが…

そうだな、戻ってバフェでも食いながら、ハンター竜田の思い出でも語ることにするか。

予定外のハプニングで、自分が異世界にいくことを回避できて、地味に喜ぶクリムゾン真鍋。果たして、クリムゾン真鍋はハンター竜田を救出に向かうのか、それとも無慈悲に竜田を見捨てるのか。